帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低減の関連性
2024年から帯状疱疹ワクチン接種により認知症リスクが減ることが報告されるようになりました。高齢者では帯状疱疹になると帯状疱疹後の神経痛と言って、疱疹がよくなってもうつ病になるくらい辛い痛みが疱疹のできたところに持続することがあります。ピリピリとかズキズキとか昼も夜も悩まされます。この痛みに対しては決定的な治療法がなく、多種類の治療法がありますが、裏を返すと効く治療がないということです。そのために本邦でも帯状疱疹ワクチンの接種費用に対して補助が出るようになりました。2024年の秋、若いころに勤務していた東京都老人総合研究所(養育院)の松下先生が「アルツハイマー認知症は抗ウイルス薬と帯状疱疹ワクチンで予防できる」という本を上梓されました。その当時輪読会と言って出たばかりの心臓の教科書を代わりばんこに早朝当番の先生が当たったところを解説しないといけない勉強会がありました。私の直接の上司が当番が近づくと、「あたっているけどよくわかんないだよな」と言っておられ、当番の日が来ました。なんと、上司は「よくわかんなかったので、松下先生解説して下さい」と頼みました。そうすると笑いながら、解説してくれました。そんな優秀な先生が言われるのだから間違いないと思い、早速シングリックスを打ちました。副反応が強く熱は出ませんでしたが、何とも言えないけだるさが一日くらい続き、2回目は休日の前に打って、ロキソニンを併用したところ、辛さはほとんどありませんでした。下に示すエリック トポル先生も友人がワクチンをほとんど打ったけれど副反応が強くご本人も躊躇したけれどたいした副反応はなかったということでした。 高齢化社会にすでに突入して、介護については施設、介護者が足りなくなる一方で、認知症などのため要介護者が増えていくことは目に見えています。認知症にかかる国家への経済・社会的負担は増大し、認知症を持つ家族にとっても精神的、経済的負担は増大し、核家族化の影響で一人暮らしの方に満足いくような介護が望めなくなるでしょう。残念ながら認知症の薬剤は高価であっても効果は期待できません。帯状疱疹ワクチンで認知症リスクを減らすことができるなら国を挙げて推奨してもいいのではないかとも考えます。
ニューヨークタイムスとEric Topol先生のX(旧twitter)との記事から帯状疱疹ワクチンと認知症リスクについてまとめてみました。
「帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低減の関連性」要約(ニューヨークタイムス2024.4.2)
新たな大規模研究によると、帯状疱疹ワクチン接種により認知症発症リスクが低減することが明らかになりました。この研究はNature誌に掲載されました:
主な研究結果
- 帯状疱疹ワクチン接種者は、その後7年間で認知症発症リスクが20%低下
- オックスフォード大学のポール・ハリソン教授は「現時点で認知症の進行を遅らせる効果的な手段がほとんどない中で、20%のリスク低減は公衆衛生上非常に重要」と評価
研究方法の特徴
- ウェールズでの2013年9月1日のワクチン接種政策(79歳は接種可能、80歳以上は不可)が「自然実験」を可能にした
- 約28万人の記録を7年間追跡調査
- 接種直前と直後の週に80歳になった人々を比較し、他の要因の影響を最小化
- 約200種類の薬物使用など潜在的な交絡因子を統計的に解析
作用メカニズムの仮説
- 炎症抑制効果:ウイルス再活性化に伴う神経炎症を減少させる
- 免疫系の全般的な活性化:女性や自己免疫疾患・アレルギーを持つ人で効果が高かった
追加情報
- 研究対象はZostavax(生ワクチン)だが、現在主流のShingrix(不活化ワクチン)はさらに効果が高い可能性
- アルツハイマー病に対する効果が他の認知症より顕著という報告も
- 帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)により引き起こされ、生涯で約3人に1人が発症
この研究は、ウイルス感染が数年後の脳機能に影響を与え、その予防が認知機能低下の抑制に役立つ可能性について、これまでで最も有力な証拠の一つを提供しています。
最近の研究:帯状疱疹ワクチンの認知症リスク低減と心血管イベント減少の関連性(Eric Topol先生のXより)
複数の最近の研究(印象的な3つの自然実験を含む)は、帯状疱疹ワクチンと認知症リスクの低減との間に一貫した関連性を示しています。今週、韓国で実施された全国規模の研究では、さらに心血管イベントの減少も報告されました。
これらの知見は、帯状疱疹ワクチン接種が認知機能の保護だけでなく、心血管系の健康にも潜在的な利益をもたらす可能性を示唆しています。自然実験による研究デザインが採用されたことで、因果関係をより強く示唆する証拠が蓄積されつつあります。
この一連の研究結果は、高齢者の健康維持における帯状疱疹ワクチンの多面的な予防効果の可能性を示しており、公衆衛生政策への重要な示唆を含んでいます。
帯状疱疹ワクチンによる認知症および心血管イベントの予防効果
比較 | 対象者数(N) | 研究の種類 | 主な発見 | 引用文献 |
---|---|---|---|---|
Zostavax、生年による比較 | 280,000人 | 自然実験(英国・ウェールズ)ワクチン接種対象年で比較 | 認知症が20%減少 | Eyting, Nature; 2025年4月 |
Shingrix vs Zostavaxなど他ワクチン | 103,857人 | 自然実験(米国)ワクチン変更による比較 | 認知症を発症しない人の割合が17%差 | Taquet; Nature Medicine, 2024年7月 |
Zostavax、生年月日による適格性 | 101,219人 | 自然実験(オーストラリア)生年月日で接種対象を分けた | 認知症が約30%減少 | Pomirchy; JAMA, 2025年4月23日 |
ZostavaxまたはPneumovax vs 対照群 | 約20,000人 | 疑似ランダム化 | アルツハイマー病が21%減少 | Ukraintseva; Experimental Gerontology, 2024年4月 |
ZostavaxまたはShingrix接種 vs 対照群 | 103,615人 | 4つの研究のメタ解析(症例対照またはコホート) | 認知症が16%減少 | Shah, Brain and Behavior, 2024年 |
Zostavax vs 対照(傾向スコアマッチ) | 1,271,922人 | 韓国全国規模のデータベース研究 | 心血管イベントが23%減少 | Lee S, European Heart Journal, 2025年5月6日 |